SUPERB ACTRESS 高畑充希
PHOTO=河野英喜 INTERVIEW=斉藤貴志
連ドラになる「忘却のサチコ」で主演
美食を探し求める”鉄の女”役
――もともとグルメマンガが好きで「忘却のサチコ」の原作も読んでいたそうですが、食に対する関心やこだわりが強いんですか?
「家族がものすごく食やお酒にこだわるタイプだったので、昔から英才教育を受けていた感じです(笑)。『絶対おいしいものを食べるべきだ』という。だから小さい頃から、いろいろなものを食べさせてもらっていたかもしれません」。
――今でもいろいろなお店に食べに行ってたり?
「忙しさによってムラがありますけど、グルメな方と共演したときは情報を聞いたりします」。
――ドラマスペシャルの「忘却のサチコ」では、庶民的なそばチェーン店でも食べていましたが、国民的女優の高畑さんはそういうお店には行かないですよね?
「3年くらい前までは行ってました。おいしいですよね。最近はたまに家でごはんを作って食べるようにもなりました」。
――連ドラのほうはもう全話の撮影が終わったそうですが、おいしそうな食べ方のコツはつかめました?
「いろいろ考えたんですけど、今回12話を1カ月半で撮って、食べることに追われる感じだったんです。だから日々必死で、技術的なことで言うとあまり発見はできず、結局は照明なのかなと。映像がきれいだと、おいしく見えますもんね(笑)」。
――撮影では何テイクか撮る中で、量もかなり食べるんですか?
「そうですね。ずーっと食べるシーンを撮るので。でも、なるべく最低限でいけるようにしました。おいしいけどお腹が……とならず、常においしく食べたくて。撮影現場以外では、あまり食事はしなかったかもしれません」。
――演技で食べることが難しいメニューはありました?
「全部が実際においしくて無理はなかったんですけど、やっていて、冷たいものはおいしく見えるようにするのが難しいと思いました。熱いものは熱いという感じだけで『わっ、おいしそう』って見えると思うんです。でも、冷たいものでおいしい感を出すのには苦労しました」。
――地方でも撮ったんですか?
「今回は宮崎に行って、あとは東京のお店でした。原作だといろいろなところに行ってますけど、結構タイトだったので。個人的には、香川に行ってうどんを食べたかったです(笑)」。
――全話の中で一番印象的だった料理は何でした?
「あまり食べたことがなくておいしかったのは、ロシア料理です。名前が全部難しいんですよね(笑)。餃子みたいな……ペリメニ(?)というのがあって、普段食べ合わせない味のおいしさが発見でした。あと、宮崎のチキン南蛮もムネ肉が全然パサパサしてなくて、すごくおいしかったです」。
――いろいろおいしいものを食べられたので、役得だったと思います。
「でも、脳でしゃべりながら食べる役なので、本当はもっと食べることに集中したかったです(笑)。忘却して食べたかったんですけど、ずっとナレーションが入ってタイミングとかがあるから、それは難しかったです」。
――ナレーションは先に録ってあるんですか?
「先に録っておいたのを、実はスピーカーで耳の中に流しているから、タイミングがすごくシビアで。自分がしゃべったことを聴きながら、気持ちをシンクロさせて食べる感じかな? ナレーション無視でひたすら黙々と食べたシーンもありましたが、ほとんどは自分の声でいろいろと妄想しながら食べる。『サチコ』以外ではやることのない作業でした」。
――逆に、ナレーションは実際に食べてない段階で録るわけですか?
「そうです。でも、食べるナレーションは感情より、勢いやテンポ感で行くほうが面白そうだなと思って。だから味を想像するより、テンポ良くバーッとしゃべるようにしました。そこに料理の映像が乗れば、きっとおいしく見えるから」。
――「忘却のサチコ」は高畑さんが演じる幸子が結婚式の最中に逃げた婚約者の俊吾のことを忘れるために、ひたすらおいしいものを食べる話ですが、高畑さんが実際、すべてを忘却するくらいのものを食べたことはありますか?
「仕事ではないかも。今回も普通に食べていたら、忘却するくらいおいしかったんですけど。プライベートでごはんに行くときは、忘却することはいっぱいあります。イヤなことがあったり、めちゃくちゃ頑張ったあとは、お寿司を食べに行ったりしますし。あと、すごいお気に入りで、でも高いから年1回しか行かないお店があって、そこのトリュフが入ったオムリゾットは忘却レベルのおいしさですね」。
――幸子はアラサーの文芸誌編集者で、仕事ぶりは完璧ながらロボットのようで“鉄の女”と呼ばれている役。高畑さんから見て彼女の良いと思うところは?
「ウソがないですね。普通は『失礼だから』って言えないことも、自分が相手のためだと思ったら言えたり、幸子さんだから許されるストレートさみたいなものがあって。そういう空気の読まなさと真っすぐさはカッコイイし、ウソがないから、あんなヘンテコリンな人なのに(笑)、愛されるのかなと思います」。
――ドラマスペシャルで一度演じて、また連ドラで入るときはどんな心持ちでした?
「単発で撮ったときに『素敵だな』と思えた作品で、また単発か連ドラでやるのを心待ちにしていたので、うれしくはあったんですけど、キャラクターが立ってる役なので、どんな感じだったか思い出すまで1週間弱かかりました。でも、スペシャルのときと同じ吹越(満)さんとか編集部の方にお会いすると、フッと戻った感じがしました」。
――イスの上に正座して電話とか、連ドラでもやっているんですか?
「正座もしましたね。あと、机の上で腕立てのように体を伸ばしたり。マンガにはないんですけど、向かいの人と会話していて身を乗り出すシーンがあって、『激しく』ということだったからバーッとやったら、すごくヘンな格好になってしまって(笑)。そのシーンは結構長くて、腕をプルプルさせながら会話を続けていたので、めっちゃ辛かったです(笑)。でも監督はニヤニヤ笑っていたから、『面白いならいいか』と思いました」。
普段は感情にカギをかけておいて
食べるシーンで外して好き放題に
――劇中でコスプレもしたんですよね?
「しましたね。結構激しいのを(笑)。1話の作家の先生のサイン会で、きゃりーぱみゅぱみゅさんみたいなコスプレをしたんですけど、すごい白塗りで、芸人のゴー☆ジャスさんみたいになっちゃって(笑)」。
――高畑さんクラスの女優さんが、そんなことまで(笑)。
「何かもうすごいことになってました。路上の人がたくさんいるところで撮影していて、『高畑充希だとわからないだろうな』と思って振り切ったんですけど、『あれ高畑充希じゃない?』みたいに言われていて(笑)。意外とバレるらしくて、めっちゃ恥ずかしかったです。でも、母親に写真を送ったら『どれがあなたなの?』と返ってきました(笑)」。
――自分でもその格好は笑えました?
「ヴィジュアルがこれなのに、メンタルが幸子というのが面白くて。いつも通りの気持ちで、見た目だけヘンな感じになるといいなと思いました」。
――「忘却のサチコ」にはそういう笑いどころが多々ありますが、幸子自身は大真面目で。
「そこはスペシャルのときから悩んだところです。幸子さんはすごくヘンなことをやっていても、本人は本気で正しいと思っていて全然疑いがない。その感じに周りが『エッ?』となっちゃうのが良いのかもしれません。なので、『ここは面白いシーン』とか考えないようにしていました。幸子さんにとっては普通のことで、相手に対して真剣。人がツッコんでくれると面白くなりました。でも、ツッコんでくれないシーンも結構あって、そこはただヘンなことを全力でやっているだけになっちゃいますけど(笑)」。
――幸子は基本ロボットのように表情を変えず、時折りヘン顔みたいになって、食べているときは恍惚の表情を見せますが、ギャップは意識しました?
「普段はパキパキ、ビシビシ動いて、感情を出さないようにカギをかけてるというか。ちょっとだけ感情があったほうが面白いので、そのちょっとしか出ないように押さえつけているんですけど、食べるシーンではカギをペッと外して、好き放題やってました」。
――原作の幸子に近づけるようにもしたんですか?
「そこは難しかったですね。自分がマンガのファンなので、余計に『私じゃないんだよな』と思うこともあるし。できるだけドラマとして面白くなるように、いろいろ気にしながらやってました」。
――能面のようなのに、何だかかわいらしい女性になってましたが、そこは自然に?
「いや、監督とすごく相談しました。マンガの幸子さんは顔はずっと変わらないんですけど、何かチャーミングだなと思って。ちょっとしたときの抜けてる感じなのか、食べてるときの印象なのかわかりませんけど、『なんでだろうね?』といろいろ話しました。あとは口。マンガで幸子さんは仏頂面のときも、口だけキュッとつぐんでいるんですよ。それを再現しました」。
――ドラマスペシャルでは顔を出さなかった俊吾役を、連ドラでは早乙女太一さんが演じています。回想を含め、2人のシーンは増えたんですか?
「増えましたね。幸子さんはちょっと感情的になっちゃったかもしれません。私、俊吾さんを理解できなくて。幸子さんはなぜ俊吾さんがいいのか、全然わからないんですよね。だけど幸子さんの中ではビビッとくるというか、『この人でないと』というのがあるんだろうし、いなくなってから『実は好きだったんだな』と思い出しちゃうことも、いなくなったから良く見えるところもあると思います。そういう気持ちは普通の恋愛でも全然あると思うので、すごく共感できます。痛くなりすぎないくらいに、乙女心が見えたらいいなと」。
――そもそもこのドラマは、俊吾の失踪から始まった話でした。
「なんで幸子さんはこんなにずっと俊吾さんを忘れられないんだろう? そこにちょっとでもリアリティが出ればいいなと思って、やってました。マンガは完結してないんですけど、ドラマの最終回での終わり方は私としてはすごく気に入ってます。台本を読んで泣きました」。
――ドラマでは一応、決着がつくんですね。
「そうですね。『こういう終わり方もあるよね』という感じで。終わりなのか始まりなのか、すごく楽しく読めましたし、ドラマとして面白くなっていたらいいなと思います」。
――この「ドラマ24」枠の作品は、何か観てました?
「『(勇者)ヨシヒコ』を観てました。あと『モテキ』もめっちゃ観ていて、大ファンでした」。
――女優として気になる枠でもあったり?
「テレ東のドラマに主演するのはずっと夢でした。ゴールデンタイムのドラマだとなかなかないテイストのものが多くて、いつもチャレンジしていて。スペシャルのときも『やった! ついに!』と思いましたけど、気になる枠の連ドラで主演できて、しかも『サチコ』ということで、よりうれしかったです」。
――「孤独のグルメ」の松重豊さんに食べるシーンのコツを聞いて「絶対内緒」と言われたそうですが、「孤独のグルメ」は何らかの形で意識はしました?
「いえ、まったく。食べるドラマというだけでテイストは全然違うから。でも松重さんはすごくおいしそうに見えるし、大好きな俳優さんだから、お仕事でお会いした機会にお話を聞けたら……と思ったら、教えてもらえなくて(笑)。松重さんは淡々と細やかに、おいしそうに食べていて、幸子さんはもっとダイナミックだから、ちょっと違うかもしれません」。
――「忘却のサチコ」もシリーズ化されたらいいですね。
「私の体が持てば……って感じです(笑)」。
――ちなみに、「忘却のサチコ」が放送される金曜深夜は、何をしていることが多いですか?
「0時12分か……。最近、ボールとかコロコロローラーとか体をほぐすものをいろいろ買ったので、お風呂に入って、それでコロコロしている頃かも」。
――実際に忘れたいことやイヤな出来事があったときに、することはありますか?
「ここ半年くらい編み物にハマっていて、やっているとたいていのことは忘れます。蒼井優ちゃんと海外旅行に行ったとき、彼女はすごく上手だから教えてもらったのがきっかけです。その後はYouTubeとかで調べました」。
――どんなものを編むんですか?
「ニット帽とかヘアバンドとか。まだ大作は全然編めないんですけど、ほぼ人にあげていて、一応みんな使ってくれています。ちょっと上手になれたらと思います」。
高畑充希(たかはた・みつき)
生年月日:1991年12月14日(26歳)
出身地:大阪府
血液型:AB型
【CHECK IT】
2005年に「山口百恵トリビュートミュージカル プレイバック part2 ~屋上の天使」の出演者オーディションで主演に選ばれてデビュー。2007年から2012年までミュージカル「ピーターパン」の8代目ピーターパン役など舞台中心の活動を経て、ドラマや映画にも数多く出演するようになり、2016年には連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK)に主演。その他の主な出演作は、ドラマ「軍司官兵衛」(NHK)、「問題のあるレストラン」(フジテレビ系)、「過保護のカホコ」(日本テレビ系)、映画「アオハライド」、「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」、「DESTINY 鎌倉ものがたり」、舞台「奇跡の人」、「エレクトラ」など。10月12日(金)スタートのドラマ24「忘却のサチコ」(テレビ東京系/金曜24:12~)に主演。12月28日(金)公開の映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」、2019年公開予定の映画「引っ越し大名」、「ヲタクに恋は難しい」に出演。
詳しい情報は公式HPへ
ドラマ24「忘却のサチコ」
詳しい情報はドラマ24「忘却のサチコ」公式HPへ