PICK UP IDOL 月ノウサギ(GANG PARADE)

PICK UP IDOL 月ノウサギ(GANG PARADE)

PHOTO=河野英喜 INTERVIEW=斉藤貴志

 
 

WACK合宿オーディション2018の
ドキュメンタリー映画が公開

 
 

――昨年3月に壱岐島で行われたWACKの合宿オーディションに密着したドキュメンタリー映画「世界でいちばん悲しいオーディション」が公開されます。月ノさんはこのオーディションを経てGANG PARADEのメンバーになったわけですが、こういう形で自分で今観ると、どんなことを感じますか?

「自分も参加者ではあったんですけど、知らなかった裏側がたくさんありました。毎日脱落者が出て、救済措置の企画に挑んでいる場面とかは見てなかったので。いろいろなことを感じましたけど、やっぱり過酷だったと思います」。

――ダンスや歌だけではなく、デスソース入りの食事を食べることも加点され、トイレに駆け込んで吐く人もいたので、かなりキツそうでした。あれは実際、どんな辛さなんですか?

「いやもう、何と言うか……。合宿オーディションでは毎回デスソースがあるのは知っていたから、激辛ラーメンとかを食べて練習していったんですけど、もっと全然強烈でした(笑)」。


――激辛ラーメンの10倍くらい?

「もっとかな? ラーメンは辛くてもおいしいじゃないですか。壱岐島のお料理もおいしかったんですけど、デスソースは元が洋風のトマトソースで、それをごはんやお味噌汁に入れるから味が全然合わなくて、おいしくないんですよ。そこが苦しかったです」。

――アイドルオーディションでそんなことをやる意味は、どう受け止めていました?

「食事って日常に欠かせないもので、普通は楽しみなはずなのに、食べるのがつらいというのはすごく苦しいことなんです。それでも食べにいく気概を見せるため,のツールだと思っていました。別に辛いものを食べられることがすごいのではないんです。だから、初日に全員デスソースを食べさせられてキツいのはわかっている中で、『挑戦しなきゃ』というのはありました」。

――月ノさんは早い段階で、自ら匂いを嗅いでデスソースが入ってそうなお膳を選んでいました。

「探しにいってました。なのに食べ切れなかったこともあったので悔しかったです。私は1日に1回はデスソースを食べていたので、お腹の中はしんどかったです」。

――燃えてるような感じとか?

「ずーっとそんなふうになっていて、きれいな話ではないですけど、後半は便秘になっちゃいました。私はもともとそういう体質でコーラックを持ってきていて、『これはもうダメだ』と思って飲んだんです。そしたら、他の参加者がみんな『私も欲しい』と言ってきました(笑)。みんなたぶん、お腹が限界だったんですよね」。

――その上で、早朝マラソンがあったり、ダンスがあったりしました。

「一日中踊っている生活で、脚が一番しんどかったです。最終日に近づくにつれて、みんなボロボロになっていました」。

――映画の中で、月ノさんが「泣いてる女の子を見て笑ってる大人ばかり」とつぶやく場面がありました。不条理を感じたのでは?

「そういうわけではなくて、ただ見たままを言っただけでした。でも、あれは怒っているように見えますよね(笑)」。

――早く壱岐島から抜け出して帰りたい気持ちになりませんでした?

「それは思わなかったです。『最後まで残って帰りたくない』という想いがずーっとありました」。

――そもそも月ノさんはWACKのアイドルには、どう興味を持ったんですか?

「最初は友だちにBiSHを勧められました。それでYouTubeで検索して、一番上に載っていた(日比谷)野音での『オーケストラ』を観て、感動して好きになりました。そこからBiS、GANG PARADEと聴いていったんですけど、オーディションを受けた頃はBiSHを一番聴いてましたね」。


――現場にも行くようなファンだったんですか?

「BiSHのライブは1回だけ行きました。でも、そんなによく行くほどではなくて、YouTubeとかで曲をめっちゃ聴いてるくらいのファンでした」。

――それで自分もアイドルをやりたいと?

「合宿オーディションの1年前に『ミスiD』を受けたんですね。ツイッターにふと流れてきて深夜のテンションで応募したら、賞をいただいたんです。それをきっかけに、本格的にアイドルを目指し始めました。ずっとかわいい女の子が好きで、アイドルという職業も知ってましたけど、『ミスiD』を受けてリアルなものになった感じです」。

――それ以前は、将来は何になろうと?

「何も考えてなかったです。高校生の頃は夢もなく、学校よりも飲食店のバイト三昧でした」。

――合宿オーディション中には、WACK代表でプロデューサーの渡辺淳之介さんとの面談で、「アイドルになれるならWACKじゃなくてもいい」という発言もしてましたっけ?

「自分的には『WACKじゃなくても』と言ったつもりはないんですけど、たぶんそう取られる言い方をしてました。私は1年前の合宿オーディションの動画も全部観てから壱岐島に行って、渡辺さんとの面談があることも予想していたんです。絶対『なぜオーディションを受けたか』は聞かれますよね? それには『アイドルになりたいから』という答えを用意しておいて、『だったらWACKじゃなくても良くない?』という質問も、たぶん聞かれると思ってました」。

――想定問答は考えておいたんですね。

「その答えを考えたら、ニコニコ生放送で配信しているし、『WACKじゃないとダメなんです』と言ったほうが聞こえはいいと思いました」。

――このオーディションに賭けてるひたむきさは出ます。

「でも、絶対にウソはバレるから……。なので『WACKじゃないとイヤ』とは言いませんでしたけど、『WACKじゃなくてもいい』ということでもなく、『WACKに入るために来ました』という想いを伝えたかったんです。すごく難しいニュアンスですけど、『ウソだけはついたらダメだ』と思っていたので、ウソではない言葉で伝えることを心掛けていました」。

――何にせよ、月ノさんには乃木坂46にいても違和感ないたたずまいと美しさはありますよね?

「いやいや! そんなそんな! とんでもないです」。

――タイミングによっては、坂道シリーズのオーディションを受けていた可能性もあります?

「合宿中に渡辺さんにも言われたんですよ。『お前は落ちたら、どうせそっちのオーディションを受けるんだろう?』みたいなことを(笑)。でも、そこでは『落ちたあとのことは落ちたときに考えます』と答えました。だから、そのときは何も考えてませんでした。『落ちたら別の道を探そう』とは思ってましたけど、まずWACKに受かることだけしか頭になかったです」。


――坂道シリーズや48グループ、ハロー!プロジェクトといった王道のメジャーアイドルには興味なかったんですか?

「そんなことはないです。でも、タイミングが良かったのがWACKのオーディションだったのと、自分がなりたいアイドル像に一番近いのがWACKでした」。

――そこがさっき出た「ウソはつかない」とつながるんですか?

「そうですね。ツイッターとかSNSで、WACKのアイドルは自分の想いを発信できているのをすごく感じてました。そういう言葉が刺さって好きになった人もきっといるし、私もその1人。BiSHさんとかを見ていて、『自分をちゃんと出しながらアイドルをしている』というのがうらやましかったんです。それでWACKオーディションを受けました」。

――映画の中で、月ノさんは初日に「アイドルになったら全部変わると思う。つらいことも100倍、楽しいことも100倍になる」と話してました。加入前から、アイドルはキラキラしているだけではなく、つらいことがあるのを感じ取っていたんですか?

「合宿から楽しいものとは思ってなかったので(笑)、具体的なことはわからなくても、アイドルの世界が厳しくてつらいのは覚悟してました。でも、私は学生時代から、生きてる感じが全然しなかったんです。毎日同じことの繰り返し。その頃に比べたら辛いことも楽しいことも何倍もあって、人生が濃くなると思ってました」。

 
 

人生で一番考え抜いた1週間で
その前の自分を思い出せません

 
 

――何か月ノさんって、いろいろなことを冷静に見ている感じがします。

「本当ですか? 確かに普段から、物ごとを客観的に見ようと意識しています。合宿のときが一番、そういうことを考えていました」。

――初日にいきなり脱落者が3人出たのを受けて、月ノさんが「『1日目に落ちなきゃいいや』みたいな人もいるような気がする。私は落ちる気で受けにきてないです」と話す場面が映画にありました。静かだけど強い意志を感じました。

「私、そんなこと言ってました(笑)? 恥ずかしい……。でも、確かに言っていたかもしれません。私は結構ネガティブな想像をしてしまうほうで、合宿中も自分が落ちたときの想像をずっとしていたんです。だからこそ、『受かるために頑張ろう』という気持ちだったんだと思います」。

――合格する自信があったわけではないんですか?

「自信は本当になかったですね。ただただ『頑張らなきゃ』という感じでした」。


――他の参加者に比べて、自分に自信があった部分もないですか?

「なかったです。逆に、自分の弱いところが見えた合宿でした。同じGANG PARADEに入ったハルナ(・バッ・チーン)は初日に渡辺さんとの面談で『このままだと落ちる』と言われて、そこからすごく頭角を現して、ニコ生の視聴者投票で1位にもなったじゃないですか。爪痕を残すのが上手な子や良くも悪くも目を引く子が今回の合宿には多くて、私はそうなれなかったと今でも思ってます。そういう子たちを見て、すごく劣等感を感じてました」。

――視聴者投票では、月ノさんはだいたい7位くらいでした。

「そうですね。ずっと中間くらいでした」。

――一方で「ヴィジュアルは飛び抜けている」という声が多く出ていました。

「いやいやいや。本当に自分がかわいいとか全然思ってませんでした。特に合宿中はあのボロボロな状態でしたから(笑)」。

――最初は参加者が24人いましたが、集団の中での人間関係はどんな感じでした?

「やっぱり日常とはほど遠い状況で、ストレスも刺激もある中で、みんなといる環境に順応しないと生きていけなかったんですけど、私は人間関係が苦だったことはなかったです。初日にBiSに入ったムロパナコちゃんと同じダンスのグループになって、仲良くなったり、何人かとは話しました。ムロちゃんは本当に面白い子でした」。

――最後の最後で不合格になったみみらんどさんとは、彼女が途中で脱落して救済措置も相手に譲ろうとしていたとき、月ノさんが「それは誰のため?」と言っていたり、合否が分かれたあとのバックステージで抱き合ったりもしてました。

「みみらんどちゃんとは最後のほうに同じグループになることが多くて、料理対決でも一緒でしたけど、すごくやさしい子でした。でも、あの救済措置のときはやさしすぎるゆえの弱さだと感じて、絶対彼女のためにならないから『誰のため?』と言ったんだと思います」。

――合宿全体を通して、月ノさんが精神的に特に追い込まれたときはありました?

「3日目にダンス審査が2回あって、私のグループは2回とも最下位で、その日に『8人落とす』と渡辺さんがおっしゃったときは、一番しんどかったです。『これは絶対に落とされる……』と本気で思って、死にそうでした。その日の夜に前日の学力テストの結果発表もあったんですけど、もうそれどころじゃない(笑)。『終わった……』という気持ちでいっぱいで、泣いてました」。


――映画に映ってない、それぞれの部屋に戻った夜は、どう過ごしてました?

「なるべく早くお風呂に入って、翌日の準備をして、体を休めました。深夜にニコ生をやっていた人もいて、すごくもどかしかったんですけど、私は自分のできることをやるしかないと思ってました」。

――月ノさんは負けず嫌いなんですか?

「昔から負けず嫌いだったと思います。だから、合宿のダンス審査で私だけが一度も勝ててなくて、全部最下位のチームだったのは悔しい日々でした」。

――GANG PARADE加入が決まった際は、「ダンスが一番激しいグループなので、死ぬ気で体力を付けたい」と話してました。合宿のあと、体力を付けるために何かしたんですか?

「受かってから1カ月でお披露目のライブなので、本当に時間がなくて、ずーっとみんなで練習練習練習。あっという間に本番で、特別なことは何もしなくて、息が切れて後半はヘロヘロだったと思います。でも、ライブをすること自体で体力が付くのがわかりました」。

――じゃあ、ライブを重ねてきた今は、1ステージやるのも楽勝?

「全然楽勝ではないです。楽勝でライブが終わったら余力を残していることになるので、常に全力は出したいです。体力がなくて十分なパフォーマンスができなかったら、自分的に悔しいので、ライブを重ねつつ、もっと体力を付けたいと今でも思ってます」。

――アイドルになって、実際つらいことも100倍でした?

「そうですね。体力が追いつくのに時間がかかったし、ツアーではメンバーとぶつかるというほどではないですけど、いろいろ大変なこともあったし……。でも、全部が楽しいことにつながる辛さなので、必要なことだと思ってます」。

――楽しいことも100倍だったと?

「本当にそうでした。毎日違うことがあるんですよ。ライブに練習、他にもイベントとかいろいろあって、刺激をもらえているのがうれしいです。高校時代とは違う、色のある日常を過ごせています」。

――自分が変わった感覚もありますか?

「ありますね。ツアーのコントコーナーで、パンストを被りましたから(笑)。たぶん合宿のときから、私が自分の崩れた姿を見せたがらないことを、渡辺さんに見抜かれていたんだと思います。それで『今回は月ノがかぶって』と言われて、そういうことも受け入れられるようになったのが、私がWACKに入って一番変わったことかもしれません」。

――今はパンストをかぶるくらい、何でもないと?

「一回やってしまえば、全然かぶれます」。

――むしろ快感になったり?

「そこまでではないですけど(笑)、かぶるべき場面が来たら、かぶります!」。

――月ノさんはコントをやるイメージもありませんでしたが、見た目がクールで、普段何をしているのか見えない感じもします。

「家では寝てますね(笑)。人と出かけるときもあれば、1人で買い物をするときもあるし、普通の人間? ただ、1日休みだったら自堕落になって(笑)、何もしないかもしれません」。


――最後に改めて、今回のドキュメント映画の「世界でいちばん悲しいオーディション」というタイトルには、どんなことを思いますか?

「私もツイッターで発表されたとき、タイトルを初めて知ったんですけど、理に適っていて納得しました。心にスッと入ってきてパンチもあるので、客観的にタイトルを聞いたら映画を観たくなる気がします」。

――本当に客観的に物ごとを見ていますね(笑)。自分が参加した体感として「悲しい」は当てはまります?

「それはあります。よく“地獄の7日間”とか“苦しい。辛い”という言葉が使われて、それも納得はできますけど、一番ピンと来るものではなかったんです。それが“悲しい”と聞いたとき、本当にその通りで『確かに!』と思えました」。

――毎日脱落者が出たりするから?

「最後のほうはそういう悲しさもありますし、自分がオーディション中に悲しかったというより、きっと世の中の人から見たら、このオーディションは悲しいものなんだと思います。毎日落とされて島から帰る人がいたり、泣きながらデスソースのかかったごはんを食べる人がいたりするので、『きっとこれは悲しく映るんだろう』と思えました」。

――月ノさん個人にとっては、どんなオーディションでした?

「人生で一番考え抜いて生きた1週間でした。オーディションが終わってからは、前の自分がどうやって生きていたのか、もう思い出せなくなりました。それだけ自分にとっては濃くて、忘れられないオーディションです」。

 
 


 
 

月ノウサギ(つきの・うさぎ)

生年月日:12月22日
出身地:東京都

 
【CHECK IT】
「WACK合同オーディション2018」に合格して、2018年3月よりGANG PARADEに加入。同年5月発売のシングル「GANG 2」に参加してCDデビュー。アルバム「LAST GANG PARADE」が1月8日(火)に発売。ドキュメンタリー映画「世界でいちばん悲しいオーディション」が1月11日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開。
詳しい情報はGANG PARADE公式HPへ
 
 

「世界でいちばん悲しいオーディション」

詳しい情報は「世界でいちばん悲しいオーディション」公式HPへ

 
 

 
 

直筆サイン入り自撮りチェキ応募はコチラ⇒