PICK UP ACTRESS 穂志もえか
PHOTO=河野英喜 INTERVIEW=斉藤貴志
下北沢が舞台の映画「街の上で」に出演
浮気して主人公と一方的に別れる元恋人役
――ツイッターのプロフィールに「Berryz工房とJuice=Juiceが好き」とありますが、ハロー!プロジェクト好きなんですか?
「この1年くらいで急に、周りのハロプロ好きの人の影響で動画を観ていたら、ハマってしまいました。でも、もうBerryz工房さんはいない。現場に行きたかったな……と思いながら観ています(笑)」。
――Berryz工房が活動休止してからハマったと。それまでアイドルに興味は?
「全然なかったんですけど、嗣永桃子ちゃんがすごく好きになりました。プロフェッショナルな感じがして、ファンを悲しませるようなことは徹底的にしない。でも、グループのためなら嫌われ役もいとわない。ポリシーをずっと貫いて、最後まで笑顔で涙を見せなかったのがすごいです」。
――そういうことを全部後追いで知ったんですね。
「会いたいけど、もう会えないのが切ないです。でも、その切ない状況が好きかもしれません(笑)」。
――Juice=Juiceは絶賛活動中です。好きな曲はどの辺ですか?
「『続いていくSTORY』が好きです。あと、『Next is you!』や『私が言う前に抱きしめなきゃね』も良いですね」。
――このたび、良作を立て続けに発表する今泉力哉監督の最新映画「街の上で」に出演されましたが、穂志さんは今泉組は「愛がなんだ」以来でした。女優の立場からは、今泉監督の作品の面白みをどう感じていますか?
「ものすごく生活感があって、しかも恋愛に特化した印象で、私は恋愛モノに出たことがなかったので楽しみでした。“今泉力哉”というひとつのジャンルがあるように感じます」。
――撮影現場でも日常感は重視されるんですか?
「私は『街の上で』の撮影が久しぶりのお芝居で、ガチガチになってしまったので、何が何だかよく覚えていません(笑)。相手役が若葉(竜也)さんだったので、『どうにかしてくれる』という信頼感はありました」。
――主人公の荒川青役の若葉さんとは、CMでも共演していましたね。では、演技でそれほど苦労はしませんでした?
「私が演じた雪と若葉さん演じる青が別れるところから物語が始まって、彼にとって雪は忘れられない存在なので、魅力的な女の子でないといけなくて。浮気はしても軽い子には見えないように、罪悪感は持っていたほうがいいとか、バランスで悩んでいました」。
――雪は自分が浮気しておきながら、一方的に「別れたい」と言ってましたが……。
「言葉は一方的でしたけど、青に情はあって、傷つけたいわけではない。『付き合いたいのはこの人じゃない』とは思っていても、嫌いになってはいない。そういう心情の見せ方が難しくて。でも、今泉さんの映画に出てくる人たちは揃いも揃って不器用で、器用に立ち回りができないから、私がガチガチになっていたのが結果的に良い形でハマったかもしれません」。
――青は「そういう目でその男(浮気相手)のことも見ているわけだ。嫉妬するわ」と言ってましたが、そこはどういう目をしようと?
「今泉さんと相談しつつ、頭の中で相手のことを考えてみたり、ただボーッと見つめたり、いろいろ試しました」。
――ああいう局面で「もし自分だったら……」というのも考えました?
「私はそもそも浮気をする気持ちがわからないので、そこが入口として大変でした。『こういう子がいたな』みたいなことを考えて、なるべく自分を消したつもりです」。
――「浮気をしない」というと、つき合っている人がいたら、他の人にはときめかないんですか?
「そうですね。『私とつき合ったらラッキーだよ』と言いたいですけど(笑)、本当にその人が一番という感じになります」。
――そうなると、別れるとしたら、振られるパターンしかないわけですよね?
「だから今回、相手を振る役は新鮮でしたし、『振る側もつらいんだ』とわかりました」。
――穂志さん目線だと、青は恋愛対象になります?
「どうだろうな……。私はどういう部屋に住んでいるかは大事だと思うんですけど、青の部屋は趣味とか好きな感じのものがわかって、そこはいいですね。たぶんピュアだし、ドキドキはしないけど一緒にいて落ち着くというか、居心地が良い気がします。言いたいことが言えそう」。
――逆に穂志さん自身は芸能人だから、普通の人が居心地良く感じるにはハードルがあるかもしれませんね。
「私はそういうことがないように、人一倍気を使っています。女優って社会の中に生きてないイメージもありますけど、作品を届けたい方たちと同じ感覚を持っていないと、良いものが作れないと思うんです。『私は芸能人』みたいにやっていたら、観る人に刺さるものにならない気がして、感覚的なところはなるべく世間に寄り添いたいです。私はみんなのように働いているわけではないから、難しいんですけど」。
――サングラスで街を歩いたりはしないと。
「したくないです。眩しいときだけ掛けます(笑)」。
自分が役と一体化してしまうのか
撮影してないときも嫉妬を感じました
――この映画について、ツイッターで「反省点もあり発見もあり勉強もさせていただきました」とありました。どんな発見があったんですか?
「私はこれが完成するのが怖かったんです(笑)。本当にガチガチになっちゃったし、現場でも全然ダメで、ちゃんとできている自信がなくて。それで試写を観たら、若いキャストたちが伸び伸び演じていて、『こんなに自由で良かったんだ』と思いました。私は『何かをしなきゃ。何か残さなきゃ』みたいになっていて、そんなことを考えずにやりたいことをやっている若い人たちを観て、『こうすればいいんだ!』と気づかされました」。
――たとえば、どの辺のシーンで?
「青が働く古着屋に来たカップルのやり取りとか、カフェで女の子が『南瓜とマヨネーズ』の話をするところですね」。
――いわゆるメインキャストではない人たちの演技ですか。
「大学生くらいの方たちで、中田(青渚)さんも当時19歳で、気を張らない感じの演技に『これだ!』と思うことが結構ありました」。
――そういうのもありつつ、穂志さん自身の演技も、完成して観たら「やっぱり良かった」となったのでは?
「全然なりません(笑)。やっぱり『これはどうなんだろう?』と思いました。ただ、試写をご覧になった皆さんに『すごく良かったよ』と言ってもらえたのは、素直に嬉しかったです」。
――どこが良かったと言われました?
「雪の不器用な感じとか、終盤の青の家に走っていくシーンや、5人で言い合いするところについて、よく言われます」。
――雪たち5人が言い争うシーンは、今泉監督作品らしい日常のヒリヒリ感が出ていました。
「撮影では大変でした。テンポ感がめちゃくちゃ大事だけど、私を含め、そういう芝居の経験が少ない人が多くて、何かうまくいかない。全員が『ヤバイな。大丈夫かな』という雰囲気になって、若葉さんが『ちょっと読み合わせをしよう』と言ってくれたりして、何回も撮りました。そのたびに、今泉さんからは『新鮮さを忘れないで』と言われました」。
――雪がイハに「『雪さん』とか軽々しく言うなよ」とか言っていたのは、リアルな苛立ちが伝わりましたが、台本にあった言葉ですか?
「その台詞はありましたけど、他の人に『お前は誰だよ』と言うのはなかったですね。私は役と一体化してしまうところがあるのか、カメラが回ってないところでも青とイハがお話ししているのを見ると焼きもちを焼いて、本当にイラッとしていました」。
――女優体質なんでしょうね。
「わかりませんけど、2人を見るとつらいときもあって、リアルに見えたなら、そういうところが出ていたんだと思います」。
――映画の舞台の下北沢は馴染みのある街ですか?
「私は見た目からサブカルっぽいと言われ続けた人生で(笑)、『下北にいそう。古着を買ってそう』とも言われますけど、全然そんなことはありません。下北に行くと絶対迷ってしまって、行きたいお店に辿り着けないし(笑)、下北を庭のようにマスターした人になりたかったけど、なれませんでした」。
――街の雰囲気とかは好きなわけですか?
「そうなんですけど、古着屋さんとかでお店の人と仲良くなるのが苦手なんです。あまり話し掛けないでほしくて。古着は着たいけど、みんなで楽しくやる下北システムには向いてないかもしれません」。
――では、穂志さんがよく出没する街というと?
「吉祥寺が好きです。映画館のアップリンク吉祥寺があって、公園もあって、お店や商店街の雰囲気が良くて、おいしいものも食べられる。サブカルすぎないけどカルチャー的なものを感じるし、住みやすそうだなと思います」。
――井の頭公園に行ったりもするんですか?
「あそこで友だちと缶でお酒を飲んだこともあります。でも、吉祥寺は私の家から遠くて、普段は映画や舞台を観に外出することが多いので、よく行くのは普通に新宿や渋谷になっちゃいます」。
――映画はよく観るんですか?
「まだまだですけど、映画は好きです。2時間くらいで観る前と後で人の気持ちをあんな変えられて、価値観を揺るがす可能性もあるのはすごい力ですよね。海外の人が観ても普遍的に響いたり、国や言語や文化を越えて胸を打つものが詰まっている。作品が映画祭とかで旅をするのも、すごくいいことだと思います」。
――インスタで「わたしはロランス」のグザヴィエ・ドラン監督を称賛していたことがありましたが、好きな映画の傾向はありますか?
「苦しい映画が好きです。『ああ楽しかった』という映画も観ますけど、それより登場人物が葛藤していたり、どうしようもできない状況にいるほうがいいです。ドランの『たかが世界の終わり』とか、ハッとさせられました」。
――死期が迫って12年ぶりに帰郷する若手作家の物語でした。
「最近観た作品だと、『存在のない子どもたち』が好きです。(ベイルートのスラム街に住む)12歳の子どもが主人公で、あれを観て“芝居”をしないことの大事さを考えさせられました」。
――穂志さん自身がそういうスタイルの作品に出たい志向があるわけですか?
「私はつらい現場やしんどい役に挑んでいきたいです。立ち止まっている場合ではないので。どんどん変わって、どんどん進化していきたくて、そのためにしんどさは絶対必要な気がします。トントン拍子で進んでいくより、悩んで苦しむほうが、私には合っているんだと思っています」。
穂志もえか(ほし・もえか)
生年月日:1995年8月23日(24歳)
出身地:千葉県
血液型:A型
【CHECK IT】
講談社主催の「ミスiD2016」でグランプリを受賞。2018年に映画「少女邂逅」で初主演。主な出演作はドラマ「デザイナー 渋井直人の休日」(テレビ東京系)、「ラジエーションハウス」(フジテレビ系)、映画「放課後ソーダ日和 特別版」、「愛がなんだ」など。JUJU「東京」、SHISHAMO「君の大事にしてるもの」などのMVに出演。映画「街の上で」は近日公開予定。
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