FRESH ACTRESS 木下彩音
PHOTO=河野英喜 INTERVIEW=斉藤貴志
ホリプロTSCグランプリの逸材
映画デビュー作「かぞくわり」が公開
――去年は「ウルトラマンR/B」に美剣サキ役で出演して話題になりました。反響は感じましたか?
「ツイッターを『ウルトラマンR/B』のファンの方がフォローしてくださって、放送日の前に『観てください』とかツイートすると、結構反応していただきました」。
――サキは普段の彩音さんとは、髪型もキャラも違いました。
「だから取材のときの写真とかを上げると、『本当にツルちゃんですか?』というコメントがよく来ます(笑)」。
――彩音さん自身がサキのようにクールな人だと思われることも?
「『どっちが本当ですか?』みたいに聞かれます。美剣サキを私と違う人物として見てもらっているのは、うれしく思います」。
――彩音さんは4年前のホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを受賞しました。その時点で京都から上京しようとは思いませんでした?
「高校生の間は地元にいて、じっくり勉強しようと思いました。だからグランプリを取ったあとも全然変わりなく、放課後に鴨川で遊んだりしていました」。
――同じ年のスカウトキャラバンでソフトバンク賞を受賞した井上咲楽さんは、当初からよくバラエティに出ていました。
「テレビで見て『すごいなー』と思ってました。私だったらバラエティであんなにしゃべれません。全然方向性が違いますけど、『私も頑張らないとな』というのはありました」。
――それで、高3だった一昨年の秋に上京したそうですね。
「日中合作映画のオーディションに受かって、本格的に演技をやっていけたらと思って上京しました。あとちょっとで卒業だったんです。先生と何回か話して、最初は『もう単位は大丈夫そう』ということだったので、友だちにも『一緒に卒業できるよ』と言ってたんですけど、急にダメみたいになって……。上京する4日くらい前に『転校する』と話しました。だから、寂しかったです」。
――友だちとサヨナラはしてきたんですか?
「上京する前の日に『何時の新幹線?』と聞かれて、朝6時半で早かったんですけど、ホームで待っていてくれました。もう涙、涙で……。付き添ってくれたお母さんまで、すごく泣いちゃってました(笑)。家系的に涙腺が弱いんですよね。本当にドラマチックなお別れのシーンを作ってもらえて、『頑張らないと』って思いながら上京してきました」。
――公開が近づいた映画「かぞくわり」は上京前に撮影したわけですか?
「そうです。高3の7月に、京都の実家から毎日奈良に通って撮りました。奈良公園とかに友だと遊びに行っていたので、普通に通える距離なんです」。
――画家の夢に挫折して38歳で親と同居する香奈(陽月華)が主人公で、彩音さんは姪の樹月役ですが、これもオーディションで?
「監督から『面談したい』とお話があって、奈良に行って、決めていただいた感じです。そのときは本当に雑談みたいに、『来てくれてありがとう。鹿がいっぱいいたよね?』と言われたりして(笑)、ラフにお話しました」。
――その時点で、樹月がどんな役か聞いていたんですか?
「『家族の物語で……』というくらいで、具体的にはまだわかっていませんでした。台本を読んで、『すごい反抗期だな』と思ったのと(笑)、『関西弁をしゃべらないんだ』ということを知りました。奈良が舞台だから、関西弁の役で私を選んでもらったのかと思っていたら、樹月はお母さんと一緒に東京から来た設定で、標準語でした(笑)」。
――そこは京都育ちとしては苦労したんですか?
「はい。やっぱりイントネーションの違いは出ちゃいました。自分では『今の違った?』って気づかないくらいの誤差で、監督も関西の方だから、録音部さんに『ちょっと違う』とちょくちょく言われました」。
――樹月は、母親で香奈の妹の暁美(佃井皆美)が実家に出戻ったのに連れてこられて、本当に反抗期っぽくブスッとしてました(笑)。
「してましたね~(笑)」。
――彩音さんにもそんな時期はありました?
「私はそこまではなかったですね。『ウザい!』とか言ったことがなくて、親とは毎日普通にしゃべってました。だから、『反抗期ってこんなことをするんだ』と思いました」。
――家で黙ってスマホをいじっていることもなく?
「ないですね。うちは基本、ごはん中はスマホ禁止だったので。テレビもつけない感じでした」。
――樹月は母親に「手伝ってよ」と言われて「自分でしろよ!」と言い返したりしてました。
「お母さんにそんなことを言うなんて、私には考えられません。でも中途半端に言ったら迫力がないので、『やり切るしかないな』と思い切って演じました」。
――家族と口ゲンカもしたことがないんですか?
「軽い口ゲンカくらいだったら、ひとつ上のお姉ちゃんとはチャンネルの取り合いとかでしてました。でも、お母さんとケンカしたのは、小学生の頃しかないかもしれません。私がテストを隠して、怒られたくらいです(笑)」。
――「部屋を片付けなさい」とか言われませんでした?
「それはよく言われました。でも、『うん、わかった。やるやる』みたいな感じで、『うるせえ、ババア!』とかは言ったことがないです(笑)」。
――じゃあ、劇中で「うるせえ!」とか言ってたシーンは、最初はなかなかやり切れなかったのでは?
「そうですね。おとなしい感じになっちゃって、『もっと声を張って』とか『もっとテンションを上げていいよ』とか言われました」。
――だけど、樹月は叔母さんの香奈が昔描いた絵に傷をつけて2階から放り投げながら、後で「この前はごめん」と謝ってもいました。
「たぶん根は良い子で、“ザ・反抗期”って感じですよね(笑)」。
――元プロ野球選手の父親の浮気騒動もあってのことのようで。
「本当はお母さんも浮気していたのを知ってるのは自分だけだし、抱えきれない部分があって、ああなっちゃったんだと思います」。
――本来の樹月はどんな子かも考えました?
「考えました。東京ではわりと友だちが多くて、仲良くしていたんじゃないかと思います。急に田舎に連れて来られて、トイレもお風呂もあんな感じだったから、『東京ではこんなことなかったのに……』となったんでしょうね。『お父さんのせいだ! お母さんも浮気したくせに何言ってんだ!』って、反抗期が余計に激しくなったのかなと思いました」。
一心不乱に絵を描くシーンでは
本当にのめり込んでいました
――さっき出た、樹月が2階からいろいろなものを放り投げるシーンでは、キレ気味の中で叔母さんの絵には「きれい……」と一瞬手が止まっていました。絵には初めから何か惹かれるものがあったようですね。
「そうですね。絵に興味を持っているんだけど、そう言えない。それで、やっぱり窓から投げてしまう……。後半では樹月は本当に絵にのめり込んでいって、『どうやればいいのかな?』というのがありました」。
――彩音さんは絵は描くことは?
「好きです。大学でデッサンの授業を取っていて、鉛筆で人や靴を描いたりしています。没頭することが好きなので、ワッとのめり込んで集中して描けます。そういう時間は良いなと感じます」。
――じゃあ、映画での絵を描くシーンはスムーズに?
「でも、ペインティングナイフを使うのは初めてで、最初は『全然違う。もっとグッと』みたいに教えていただいたので、家に持ち帰って練習しました。『こうやって絵を描くこともできるんだ』って新しい発見があって、楽しかったです」。
――まさに没頭して描くシーンもありました。
「前かがみになって絵を描いたシーンは印象に残ってます。“狂ったように描く”みたいなト書き(注釈)があって、最初『できるかな?』って感じだったんです。とにかく一生懸命に、絵のことだけを考えて力強くやりました。カットがかかった瞬間、全身の力が『あーっ……』と抜けた感じだったので、自分で『のめり込んでいたんだな』と思いました」。
――「没頭することが好き」ということですが、他にはどんなことに没頭するんですか?
「最近だと、ホットヨガの体験が楽しかったから、行ける日は行ってます。あと、好きなキャラクターにハマると、そればかり買っちゃいます。ポムポムプリンとか、いまだに集めてますから」。
――それは4年前のスカウトキャラバンのときから言ってましたね(笑)。
「部屋が真っ黄っ黄です(笑)。実家からも結構持ってきましたし、大きすぎるぬいぐるみとかは持ってこられなかったので、実家にもまだいっぱいあります。お母さんには『そろそろやめなさい』と言われますけど、次から次に新しいものが出るので、まだ集めていきたいです」。
――新しいものと言っても、基本ポムポムプリンは変わらないんですよね(笑)?
「お母さんにも『同じようなものばかり』と言われます。でも、形がちょっと違ったりするので(笑)、そういうのを集めるのも好きです」。
――語学にも没頭していたのでは?
「そうですね。最初は何か強みがほしくて、中国語がよく使われる言葉だと聞いたので、高校時代に本を買って独学で勉強してました。その頃にちょうど日中合作映画のお話が来て、オーディションに受かってからは、先生に教えてもらうこともありました。難しくてワケがわからなくなっちゃいますけど、通じたら楽しいと思うので、ハマっちゃいました。自分がしたいと思ったことなので、苦はなく続けられてます」。
――それが仕事にも結び付いたんですね。「かぞくわり」に出てくる大津皇子や「死者の書」のことも詳しく調べたんですか?
「『死者の書』は『難しすぎるから読まなくていい』と監督に言われたので、大まかなお話だけ聞かせてもらいました。あと、お休みの日に、撮影もした當麻寺とか奈良の有名なお寺巡りに、キャストのみんなで連れて行ってもらいました」。
――映画にも出ていた當麻寺の曼荼羅を見たり?
「そうです。きれいな曼荼羅が一面に張られていて、圧倒されました。『もっと早くから知っていれば良かった』と思うくらい素敵で、巡り会えて良かったです」。
――香奈や樹月が絵を描いていた地下壕は、実際どんな場所だったんですか?
「戦争のときに隠れる場所として使われていたらしくて、暗くて怖かったです。水の音がペチャペチャしてました」。
――撮影したのは夏だったんですよね?
「真夏でした。めっちゃ暑かったです。家族で食事とかをする家も空き家を貸していただいたので、クーラーもなくて、ずっと密閉空間。ジメジメして汗が吹き出しちゃう感じでした」。
――当時、演技経験があまりなかった中で、悩むことはありませんでした?
「最初はすべてが不安でした。でも、監督がやさしくお話してくださって、導き出してもらう感じで、ゆっくり撮っていただいたんです。キャストの皆さんも温かいアドバイスをくださったり、『このシーンは良かったよ』とか言ってくださったので頑張れました。生で大御所の皆さんの演技を見させてもらって、『これじゃダメだ。もっと努力しなきゃ』と改めて思いました」。
――じゃあ、そこまで苦戦したことはなく?
「そうですね。大変だったのは暑かったのと、あと絵に傷をつけるシーンです。実際に50万円とかするキャンバスの絵を破ったんですけど、何層にも塗ってあって本当に硬くて、後ろに傷をつけてもらっても、なかなか破れませんでした。どうしたらぶつけた感じではなく、自然に当たって破れたようになるか、力加減が難しかったです」。
――破れやすいキャンバスを使っても、パッと見そんなに変わらないんでしょうけど。
「私も違いはわかりませんでしたけど、監督がそこにこだわりがあったみたいで、本物の絵を破らせていただきました」。
――奈良の家で初めてごはんを食べたとき、揚げ物を口にして「まっず!」と吐き出すところは面白かったです。
「『本当に吐いていいのかな?』と思いましたけど、みんなで吐くからコミカルになるので、思い切り吐きました(笑)」。
――この映画に出演して、家族について考えたことはありました?
「上京してからのほうが、考えることは多いですね。今日も全然しょうもないことですけど、1人だと後ろのチャックが閉められなくて(笑)、『いつも家族にギュッとやってもらっていたな』とかを考えました。実家では普通だったいろいろなことに感謝しないといけないですね。『帰りたい。会いたい』って、おじいちゃんやお母さんに頻繁に電話をかけちゃいます」。
――でも京都育ちだったら、東京暮らしにはそれほど戸惑がないのでは?
「私の地元は、京都でも観光地のほうではない普通のところだったので、東京みたいに電車が混むことはなかったし、人もこんなに多くなかったです。東京に来てから、よく道に迷いました。『あれ? ここはさっきも来た……』ってパニックになったり、待ち合わせして全然会えなかったり……」。
――新宿や渋谷辺りで?
「そう。新宿は本当に怖かったです。今もちょっと難しくて、駅で待ち合わせて電話で『着いたよ』『こっちも着いたけど』って、お互い迷子になっちゃったりしました(笑)」。
――東京で良いと思うところもありますか?
「あります。私、スイーツが好きで『東京に初上陸』というニュースがあると、前は『東京か。いいな……』って見ていたんですけど、今は『じゃあ、明日行こうかな』となるので(笑)」。
――今年はどんなことをやっていきたいですか?
「『ウルトラマンR/B』が終わったので、美剣サキと全然違う役でドラマや映画に出て、『こういう役もできるんだ』と思ってもらえる人になっていきたいです。10代ラストの年なので、学園モノとかもできたらいいですね」。
――たとえばコメディに挑戦したい気持ちもありますか?
「楽しそうだし、俳優の皆さんがやり切っているから面白くなると思うので、そういうオーディションがあったら全力でやって、お仕事につなげていきたいです」。
――普段は人を笑わせることも?
「そうでもなくて、普通です(笑)。でも、みんなで楽しくおしゃべりするのは好きです」。
木下彩音(きのした・あやね)
生年月日:2000年2月21日(18歳)
出身地:京都府
血液型:A型
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2015年の「第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン」でグランプリを受賞。「Yahoo!ニュースアプリ」CM、永谷園「朝のおひさま茶づけ編」CM、「ナチュラリ」web広告に出演。2018年にドラマ「シグナル 長期未解決事件捜査班」(カンテレ・フジテレビ系)で女優デビュー。「ウルトラマンR/B」(テレビ東京系)に出演して注目される。映画「かぞくわり」は1月19日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開。日中合作映画「在乎你(ツァイフーニー)」(邦題「逢いたい」)が2019年に日本公開予定。
詳しい情報は公式HPへ
「かぞくわり」
詳しい情報は「かぞくわり」公式HPへ