PICK UP ACTRESS 佐藤玲
PHOTO=小澤太一 HAIR&MAKE=タカダヒカル(PARADE)
STYLING=杉本知香 INTERVIEW=斉藤貴志
衣裳協力:SHIROMA(GUSUCUMA/03-6804-5865)=ワンピース¥83,000
flake(03-5833-0013)=ピアス ¥41,000
青春群像映画「高崎グラフィティ。」に主演
卒業して夢に向かって上京するはずが……
――サッカーのワールドカップをすごく観ていたようですね。
「ほぼ全試合観ました。私、サッカーをやっていたんですよ。小学生のときに2002年の日韓ワールカップを観て、弟と一緒に始めました。女の子は少なくて、私は中学でやめちゃいましたけど、サッカーはずっと好きで、ワールドカップは毎回ほぼ観ています」。
――今も運動は何かしていますか?
「好きなんですけど、最近は全然してなくて、グータラしてます(笑)。でも毎日、腹筋5回と腕立て5回はやってます。数を増やすと続かなくなっちゃうから、しばらく5回で続けて、習慣づいたら、ちょっと増やそうかなと思ってます」。
――演技力向上のために、日ごろからやっていることは何かありますか?
「何もないです(笑)」。
――自然体で臨んでいると。
「自然体というと聞こえがいいですけど(笑)、何も考えないで、現場で監督のお話を聞いて、『なるほど』ってやる感じです」。
――「高崎グラフィティ。」で主人公の吉川美紀を演じるに当たっても、特に下準備はせずに撮影に臨んだんですか?
「そうですね。企画の段階から関わっていたので、何となく『こういう子かな?』というのはあったんですけど、直前になって過去のエピソードや裏設定みたいなものができて、そういうのを吸収しながら、最終的に現場で出来上がった役だったと思います」。
――美紀は高崎で高校生活を終えたら上京して、服飾の専門学校で勉強することになっていましたが、キャラクター的に自身に近いところはありましたか?
「美紀はかなり頑固で、自我が強いんです。私はインドアなほうですけど友だちと遊ぶのは好きだから、いつも1人でいるタイプではないですね。だから、同じなのは気が強いところだけかなと思いました」。
――玲さんも気が強いと?
「強いと思います。自分が凝り始めると気が済むまでやるとか、攻めるほうです」。
――美紀は友だちの寛子(岡野真也)に「無神経」と言われてました。
「自分のやりたいことがしっかりしている分、ちょっと凝り固まって、人の気持ちにまで想いを馳せられないという感じです。お母さんが亡くなって心が止まっている部分もあって、寛子みたいに人とのバランスをとれないし、恋愛を軸にしている子と違って感情の色も少ないのかな。そこがグラデーションの多い子からは淡泊とか無神経に見えるんだと思います」。
――心情がわかる部分もありました?
「私は東京生まれの東京育ちですけど、美紀の父親が専門学校の入学金を持ったまま姿を消して、やりたかったことから手を引かなきゃいけなくなったところは、自分にもあったかなと思いました」。
――そうですか? 玲さんは女優ひと筋で望んだ通りに生きてきたのでは?
「たとえば、どうしてもやりたかった役をできなかったことはあるし、プライベートでも人間関係の中で『こうしたかったけど言えなかった』とか、『やり切れなかった』という局面があったりもしました。自分が不甲斐なくて『何でだろう?』と思ったのは、美紀と若干近いかもしれません」。
――美紀と同じ高校時代にも、そういうことがあったんですか?
「私の高校はすごい進学校だったので、周りの子はいい大学や海外留学を目指していました。その中で、私はお芝居がしたくて日藝(日本大学藝術学部)を選んだんですけど、みんなはお勉強を頑張っているのに、私はあまり頭も良くなくて頑張り切れなかったんです。なので、『周りの子たちみたいにはなれなかった……』というところは美紀と重なりました」。
――美紀には「学校つまらなかったな」「もっと青春しとけばよかったな」といった台詞がありました。
「私は学校がつまらなくはなかったです。女子校で恋愛面は若干疎かったけど、楽しかったので。ただ、授業についていけない悔しさはずーっとありました。勉強が嫌いなわけではないのに『どうしてだろう?』と思いながら、レベルが高すぎたので途中で諦めちゃいました」。
――「高崎グラフィティ。」では女子たちが上辺では友だち付き合いをしながら、腹の内ではバチバチしている描写もありました。ああいうのは経験的にリアルだと感じました?
「どちらかと言うとリアルかな? わかりやすい物語のいじめのスタイルより、リアルだと思いました。お互いの良いところと悪いところを見極めてしゃべっていて、みんな高校生として敏感に関係のバランスを取ろうともするし、自分をちょっと良く見せようともする。そこは自然な感じがしました。誰でも多かれ少なかれ、覚えがあるだろうなと思います」。
――友だち同士でもそうなるのか、本当の友だちではないのか……。
「その子と遊ぶのがイヤじゃないけど、『この子はこんなところがあるよな』と考えながら一緒にいるという感じですね。いくら仲良くても、あることじゃないですか? 高校生だとまだ子どもだから、わかりやすく出るんだと思います」。
――劇中では、一緒にカラオケに行った子たちと「ウザいのはそっちでしょう!」とかやり合っていました。
「お互い我が強かったんだろうし、子どもで許容量がないから、それゆえのケンカですよね。かといって、そこまで子どもでもないから、相手の言ってることはわかると思うんです。ただ、自分の中にうまく取り込めないんでしょうね」。
――美紀はクールに見えて、一緒に父親を探してくれたクラスメイトたちに急に「帰ってよ!」と爆発したり、自分の中に溜め込んでしまいがちなんですかね?
「うまく自分の気持ちを人に伝えられないところはあると思います。全部が機嫌の悪さに出てしまう。『私はこうだから、それはやめて』と言えばいいのに、流されて流されて『あっ……あっ……』となっているうちに、どんどん悪い方向に行って、あとから『だから言ったでしょう!』みたいになる。きちんと自分の言葉で自分の感情を伝えられるようになるのが、課題の子なんだろうと思いました」。
――高崎で撮影して街の空気を肌で感じて、上京したがっていた美紀への理解が深まったりはしませんでした?
「スタッフやみんなの話を聞いていたら、高崎は東京に全然出てこられるけど、地元でも満足できるくらい発展しているイメージがあって、行ってみて何となく言われていたことがわかりました。失礼ですけど、もうちょっと田舎かと思っていたんです。でも全然そんなことはなくて、何でも揃うし、駅からちょっと歩けば山が見えて穏やかさもある。バランスが良くて安心して住めるので、わざわざゴミゴミした東京に出てくる必要はないと感じました。ただ、地元で遊べば誰かと会っちゃうとか、羽を伸ばし切れない窮屈さみたいなものはあるかもしれない。だから、美紀は出ていきたかった。自分を知っている人たちから解放されたかったような気がしました」。
悔しさと挫折を味わうシーンで
涙が止まらなくなりました
――この映画はもともと、玲さんが日藝時代の同級生の川島直人監督に「同期で何か作品を作りたい」とDMを入れて、2年後に3分以内の予告編映像のコンテスト「MI-CAN」でグランプリを取ったことから、本編として制作されたんですよね。「同期で」というのは軽いノリだったんですか? 深い想いがあったんですか?
「大学のAO入試で『こんなことを学びたい』みたいな論文を提出して、『いろいろな学科の人と触れ合って意見を聞いて演技をやっていきたい』と書いたんですね。でも実際に入学したら、なかなかそういう機会がなくて、卒業してから学科の隔たりがなくなって、それぞれの分野で頑張る人たちと一緒に何か作ったら、楽しいだろうと思ったんです。映画か舞台かパフォーマンスか、ジャンルは特に考えず、いろいろな学科から全員が関わる企画をやりたくて……。それに日藝ブランドに関して『昔は良かったけど今は……』みたいに言われるのを、見返したい気持ちもありました」。
――母校愛が強いんですね。
「そういうことではなくて(笑)、『私たちはちゃんとやってるぞ。捨てたものじゃないぞ』と言いたかったんです」。
――コンテスト用に先に作った予告編から手応えはありました?
「とりあえず撮り切って、締切ギリギリで提出したんですけど、映像もすごくきれいだったし、いいんじゃないかと思いました。とはいえ、入賞できるとは夢にも思いませんでした。他に面白い応募作が本当にいっぱいあったので。だから、グランプリをいただいても、実感は湧かなかったです。でも、本編が少しずつ形になっていって、感慨深くなりました」。
――長編映画デビューだった川島監督の視点とか演出とか、演者として響いたところというと?
「何も決まってなかったところから一緒に企画して、作品になっていきましたけど、撮影中もわりと自由に役者の思った通りに動かしてくれて、みんなとの空気感がどんどんリアルになって、絶妙な間が生まれました。監督がそういうものを少しずつ構築していったんだと思います」。
――リアルという点では、卒業式のあとからの話ですが、高校生役にも違和感はありませんでした?
「フフフフ(笑)。ちょこちょこ高校生役はやってますけど、撮影のときはもう25歳だったので、ちょっとドキドキでした(笑)。制服を着ると、特別な拘束感があるじゃないですか。抑制されている感覚は思い出しました」。
――劇中では卒業式の日の夜に花火をしたり、商店街をみんなで走ってましたが、そういった青春っぽいことは実際の高校時代にしていましたか?
「女子校で恋愛もそんなにしてなかったし、劇団でお芝居の勉強も始めていたので、いわゆる平均的な高校生がやるようなことはしなかったほうですね。でも撮影でみんなと走ったり、河原でワーッと笑っていると、その頃に戻った感覚になりました。自分の高校生活にはなかったけど、高校生のバカらしいところを楽しみました(笑)」。
――経験したかった青春でした?
「彼氏と自転車の2人乗りとか、してみたかったですね(笑)。下校デートと言うんですか? そういうのはやってみたかった。ハハハ(笑)」。
――撮影中に難航したシーンはありませんでしたか?
「感情面より、冒頭の卒業式のあとに鏡の前から廊下を抜けて教室に入るシーンは長回しだったので、ちょっと緊張しました。すれ違う生徒役のみんなとのバランスもあったので。でも、カメラマンの武井(俊幸)くんも同級生で信頼していて、『好きなように歩いていいよ』と言ってくれたので、任せてできました」。
――玲さん自身の高校の卒業式も思い出しました?
「私の卒業式は震災があって、なくなっちゃったんですよ。だから切なくて、『やりたかったな……』というのがあります。そういう意味でも、映画でできたのは新鮮でした」。
――クライマックスで自分の将来への想いを涙ながらに吐き出すところは、エネルギーを使ったのでは?
「使いましたけど、私がバーッとしゃべるところは1回しか撮らなかったんです。一発で『ハイ、OK』となったから、気が抜けたくらい(笑)。たぶん、うまく言うよりグチャグチャになっても、最初の衝動的なところを大事にしたかったんだと思います」。
――部屋で自分の描いた洋服のデッサン画を見て涙する無言の場面も、すごく印象的でした。
「みんなの前ではうまく感情を出せなかった美紀が、1人になって夢が断たれたことを初めて実感する。それで、デッサンを壁から外す。自分からやりたかったことを終わりにするのは、すごく辛いじゃないですか。今まで何年か頑張ってきて、やっと『行ける』と思ったところで絶望的になって……。この映画で私の感情が一番爆発したところですが、本当は泣く予定ではなかったんです」。
――そうだったんですか?
「映画では大泣きする手前で切ってますけど、撮っていたときはあのあとがボロボロ。美紀が初めて悔しさと挫折を味わって、涙が止まりませんでした。しかも、あそこは最後に撮ったシーンだったんです。撮影の2週間をみんなと駆け抜けた感慨もあったと思います」。
――玲さんの夢の女優業のほうは、挫折なく来てますか?
「そんなことは全然ないですね。『もっとこういうふうになりたかった』とか『こんな役を若いときにやりたかった』というのはあります。まあ、あとから言っても仕方ないので、『これからできたらいいな』と思うようにしています」。
――これからどういうふうになりたいと?
「固定的なスタイルにはこだわってなくて、いろいろなことをやりたいです。そう思っているわりには、手が伸ばし切れてないところがあるので」。
――ドラマ「グッド・バイ」では新境地のキャバ嬢を演じていますが……。
「そう、そう。あのキャバ嬢はヤバイですね(笑)。あとは、舞台出身なのでまた舞台もやりたいし、ナレーションもやってみたいし、『歌っている人はどんな感じなのかな?』とも思います。お洋服が好きなので、モデルさんにも興味あります。今後はそういったこともやってみたいです」。
――日々の生活では、どんなことが楽しいですか?
「ぶぶという犬を飼っていて、その子と遊ぶのが一番楽しいです。家に帰ると出迎えてぺロペロしてくれるのでウッヒャーとなるし、寝るときも一緒。彼女みたいに、私の腕枕で寝てくれるんですよ(笑)。かわいくて仕方ないです」。
佐藤玲(さとう・りょう)
生年月日:1992年7月10日(26歳)
出身地:東京都
血液型:A型
【CHECK IT】
2012年に蜷川幸雄演出の舞台「日の浦姫物語」で女優デビュー。2014年に映画デビュー作「おばけ」で初主演。主な出演作は映画「リュウグウノツカイ~17歳の妊娠サークル~」、「色あせてカラフル」、「少女」、「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」、ドラマ「表参道高校合唱部!」(TBS系)、「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」(カンテレ・フジテレビ系)、「架空OL日記」(読売テレビ・日本テレビ系)など。ドラマ「グッド・バイ」(テレビ大阪/土曜24:56~、BSジャパン/土曜24:00~)、Heather インスタドラマ「デートまで」に出演中。映画「高崎グラフィティ。」は8月18日(土)よりシネマテークたかさき、イオンシネマ高崎にて先行公開、8月25日(土)よりアップリンク渋谷、イオンシネマ シアタス調布ほか全国公開。映画「栞」が10月26日(金)より公開。
詳しい情報は公式HPへ
「高崎グラフィティ。」
配給:エレファントハウス
詳しい情報は公式HPへ
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