PICK UP ACTRESS 恒松祐里

PICK UP ACTRESS 恒松祐里

PHOTO=河野英喜 STYLING=武久真理江
INTERVIEW=斉藤貴志

 
 

映画「凪待ち」で悲劇が降り掛かる役
母の恋人のろくでなしの男と心を通わす

 
 

――映画「凪待ち」で主人公の郁男(香取慎吾)の恋人の娘・美波を演じて、冒頭に「モンスターハンター」をプレイしているシーンがありました。物語のメインの部分ではありませんが、祐里さんもゲームはやり慣れているんですか?

「普通にゲームはやりますけど、今回使ったニンテンドースイッチは家になくて、『モンハン(モンスターハンター)』はやってなかったんですね。一番やるゲームはいまだにスマートフォンの『どう森(どうぶつの森)』で、戦い系でも『ゼルダ(ゼルダの伝説)』とか『ポケモン』とか平和チックなものが多いです。でも美波はゲーマーだから、現場に入る前に操作を覚えておこうと思って、初めて『モンハン』をやったらハマりました。石巻での撮影にも持って行って、撮休の日もホテルで『モンハン』をして、肉を剥いでました(笑)」。

――それは役作りなのか、単に遊んでいたのか……(笑)。

「もちろん、役作りですよ(笑)!」。


――美波は父親のDVで両親が離婚。毎日ふらふらしている郁男のことは慕っていて、3人で故郷の石巻で再出発しようとするけど……という役どころでした。ざっくり言って難しい役でしたか? やりやすかったですか?

「難しい感じでした。いろいろ抱えているものもありますし、劇中で起きる悲劇がダイレクトに降り掛かるので。私は今までわりと幸せな役が多かったんです。自分が死ぬこともあまりなかったですし、家族や友だちが亡くなったり、暴力をふるわれたりも本当になくて、むしろ宇宙人役で暴力をふるっていたり(笑)」。

――「散歩する侵略者」ですね。あれはムチャクチャやってました(笑)。

「そういう側だったんです。被害者の立場になるのが初めてで、気持ちを自分の中で作りました。でも現場でずっとその気持ちでいると、オン・オフができません。お母さんが死んじゃったシーンを撮った次の日に、お母さんが生きているときのシーンがあったりもするので、切り替えながら、役作りはしっかりしていくのが難しかったです」。

――美波は中学時代の同級生に「昔は超元気だった」と言われてましたが、昔の美波が祐里さん本人のように明るく朗らかだったんですかね?

「私もそう思いました。だけど劇中でも美波の明るさは出ていて、明るくないのは学校にいるときくらい。過去のシーンは描かれてなくて、映画では最初から引きこもってはいましたけど、居場所はあって……。大好きな郁男とお母さんと3人での暮らしが心地良いから、暗くはない。むしろ明るいというバックボーンから考えていきました。笑うときは笑う。ちょっかいを出すときは出す。劇中ではいじめられていたわけじゃなくて、しかも地元に帰ってきたので、もともとの素のままの美波を意識しました」。


――魚市場で、はしゃぐシーンもありましたね。一方で、怒ったり泣いたり、感情を爆発させる場面もありました。

「そうですね。お母さんが亡くなっていたシーンとか、エネルギーがないとできないと感じました」。

――お母さんと言い合いをする場面では「うるせえんだよ!」などと言ってました。普段の祐里さんが使わない言葉ですよね?

「そうですね。あの場面はお母さんも悪いと思うんですけど(笑)、私はそこまでのケンカをしたことはないです」。

――あの後の美波みたいに、親を心配させるために何か反抗的なことをした経験もないですか?

「ないです。うちは心配してるのか、してないのかよくわからない親で(笑)、『自由にして』という感じなんです。私が自由にやっている中で心配してるのかもしれませんけど、わざと心配させるような反抗はしたことがありません。高校時代だと、テスト勉強ですごく夜遅くまで寝なかったので、そういう意味で心配はされたかもしれません」。

――やっぱり祐里さんは良い娘なんですね。

「ただ、私はワークショップやお芝居のレッスンではケンカをするシーンをやりがちなんです(笑)。だから、お芝居の中でケンカするのはわりと慣れています」。


――郁男にお母さんが殺された夜の話を聞いて、泣きながら「出てって!!」と叫ぶ場面もありました。

「あのときもエネルギーを使いましたけど、そういうお芝居をする中で、自分でオン・オフができていました。役の感情は作りつつ、『私もこういうお芝居ができるようになったんだ』と客観的に自分を見ながら、楽しんで演じているところもありました」。

――演技者として、ひとつ上のレベルに行ったんでしょうね。あそこの泣き顔はボロボロというか、だいぶ崩れてました。

「私は泣くといつも、ああいう感じになっちゃうんですけど、あのときは思春期ならではの強烈な怒りが出ました。でも泣き顔って、見せる相手によって変わると思うんです。泣いてるところを見せたくない人には、我慢するような顔になるし。ああいう顔ができたのは、根っこで郁男と美波が信頼し合っているからかもしれませんね」。

――演技でも自分のそういう顔が映ることに抵抗ある女優さんもいるようですが……。

「私は何もちゅうちょしません。逆に『抑えて。もっとかわいく』とか言われがちです(笑)」。


 
 

お芝居のために日常でも意識的に
感情が溢れ出るようにしています

 
 

――普段も感情の起伏は大きいほうですか?

「今まではなかったんですけど、お芝居の中でできるようになるために、敏感になることを日常的に意識してます。自分の部屋でそのときの感情を思い出して泣いてみたり、心の中で頑張って怒ってみたり……。今までの私は、そういうのを抑えがちな性格でした。人に迷惑をかけたくなかったし、強がりな部分もあったので。今も強がりですけど、何とか感情が溢れ出るようにしています」。


――日常生活も女優としての意識を持って過ごしているんですね。最近でも喜怒哀楽の何かで感情が高まったことはありました?

「我が家についに車が来たんですよ。お母さんが何年ぶりかに運転して、私は助手席で見守ってましたけど、そのときは感情というか、心臓のドキドキがすごかったです(笑)。お母さんが安全運転していても、おっちょこちょいなので間違えることを想像すると怖くて、ずーっと手すりを掴みながら『早くおうちに帰りたい!』と思ってました(笑)」。

――祐里さんも免許は取ったんですよね?

「はい。でも、自分ではまだ運転しません。車庫入れの練習だけしてます(笑)」。

――「凪待ち」の話に戻ると、美波は郁男が大好きとのことでしたが、彼は善意でもらった大金をギャンブルに注ぎ込むような男でもあります。役ではなく祐里さんから見ると、どう思いますか?

「この作品全体を観ちゃうと、『ダメな人だな』と思います。でも私が美波として一番多く見ていたのは、郁男のやさしい部分でした。それが根本にあるからこそ、良くも悪くも人が寄ってくるし、守ってあげたくなる。香取さんの演技がリアルだったからかもしれませんけど、私は映画を観ても、どうしても美波として考えてしまって、郁男を救ってあげたくなっちゃいます」。

――ギャンブルから足を洗えなくても?

「そうですね。美波を通すと、それを上回る愛情を持ちました」。

――白石和彌監督は、祐里さんと雑誌の企画で仕事をしたときの印象が強くてキャスティングしたそうですが、どんな企画だったんですか?

「監督が『地球最後の恋』というタイトルの何ページかの台本を書いて、吉村界人くんと私が演技しながら写真を撮ってもらって、監督が文章を付ける企画でした。それで私を覚えていてくださったみたいで、本当にありがたかったです」。

――「凶悪」や「孤狼の血」など荒々しい作品のイメージが強い白石組ですが、現場の空気に独特なものはありましたか?

「熱い現場でしたね。今回は静かな物語ですけど、細部にたくさんこだわりがあって、監督もスタッフさんたちもアイデアを出し合いながら作っていて、とても活気がありました。私は最年少で、会話に入っていけるときと頷いているだけのときがありましたけど(笑)、現場にいるだけで楽しくて幸せでした」。


――美波役は「難しかった」とのことでしたが、それほど悩んだわけではなかったんですか?

「悩みましたし、この題材でこの境遇の役だから、いろいろ考えました。でも現場に行くと、お芝居が素敵な方ばかりで、一緒に演じていると悩みが吹き飛びました。香取さんはずっとテレビで見ていた方だったので、最初は近くにいらっしゃるとビックリしてしまいました(笑)」。

――ラストシーンはどんな気持ちであの表情になったか、覚えていますか?

「すごい長回しで、どこが使われるのかわからなかったんですけど、本当に凪の状態だった海を見て、今までのことを思い出しながら、未来の希望を考えていた記憶があります」。

――あと、美波の母親はずっと行きたがっていた外国の島がありました。祐里さんにもそういう場所はありますか?

「私は(映画『くちびるに歌を』を撮影した)五島列島に帰りたいです! 20歳になったから、地元のおいしいお酒を飲めるかもしれないし(笑)。今まで行ったことのないところなら、ヨーロッパがいいですね。両親の新婚旅行がイタリアだったそうなので、私も行ってみたいです」。

――お酒の話も出ましたが、去年10月に20歳になってから、何か変わったことはありますか?

「特にないです。お酒も20歳になりたての頃はちょっと抵抗があって飲みたくなかったんですけど、最近は頑張って飲もうと、前向きになっている気がします」。


――大人のたしなみとして?

「そうですね。あとは自分を高めるための練習として。作品で飲むこともあるかもしれませんから」。

――本当に女優として生きているんですね。

「いやいや。頑張ってますけど、2杯飲むと眠くなっちゃいます(笑)。この前、(葵)わかなと2人でごはんに行ったときも、私が2杯で眠ってしまって、わかなに『もう帰ろう』と呆れられて(笑)、反省しました」。

――この夏も充実しそうですか?

「日焼けはしたくないですけど、小旅行はできたらいいなと思います。海やプールにも行けたら。でも、そもそも泳げるようになりたいです(笑)」。

 
 


 
 

恒松祐里(つねまつ・ゆり)

生年月日:1998年10月9日(20歳)
出身地:東京都
血液型:B型
 
【CHECK IT】
子役としてデビューし、2015年に映画「くちびるに歌を」に出演して注目される。主な出演作は映画「ハルチカ」、「サクラダリセット」前篇・後篇、「散歩する侵略者」、「虹色デイズ」、「3D彼女 リアルガール」、ドラマ「まれ」(NHK)、「真田丸」(NHK)、「もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~」(日本テレビ系)、「都立水商!~令和~」(MBS・TBS系)など。映画「凪待ち」は6月28日(金)より全国公開。「いちごの唄」が7月5日(金)、「アイネクライネナハトムジーク」が9月20日(金)、「殺さない彼と死なない彼女」が今秋公開。ミュージカル「ドン・ジュアン」に出演。 8 月30 日(金)~9 月18 日(水)TBS 赤坂ACT シアター、10 月1 日(火)~5 日(土)刈谷市総合文化センター アイリス大ホール。
詳しい情報は公式HPへ
 
 

「凪待ち」

6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードョー。監督:白石和彌、脚本:加藤正人、出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキーほか
詳しい情報は「凪待ち」公式サイトへ
 

 

 
 

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