SUPERB ACTRESS 柳ゆり菜
PHOTO=城方雅孝 INTERVIEW=斉藤貴志
映画「純平、考え直せ」でヒロイン
チンピラと3日過ごす役に覚悟を決めて
――映画「純平、考え直せ」でヒロインの加奈を演じましたが、以前から森岡利行監督が演出する舞台に出演してましたよね。
「その舞台をプロデューサーが観に来てくださって、お声掛けいただきました。撮影したのは2年前です」。
――去年取材させていただいたときは、当時好きだった映画として「トゥルー・ロマンス」や「バニラ・スカイ」が挙がってました。こういう生々しい作品を自分でもやりたかったんですか?
「本当にそういう志向だったときです。台本を読んだら、すごく熱くて『ちゃんと生きている人がいる』と感じました。当時の私は何気なく過ごす毎日に不安があって、『退屈だな。ここから抜け出したいな』みたいな気持ちでいて……」。
――不動産屋で働いていた加奈にも「店やめてきた。退屈だったの」という台詞がありました。
「そうなんです。加奈に自分を投影しました。私が感じていたことがそこにあったし、本気で人を好きになることをうらやましく思いつつ胸を打たれて……。そのときの自分にすごくマッチしていたんですよね」。
――でも2年前といえば、ゆり菜さんはグラビアで大人気で、各誌の表紙を飾っていましたよね? そんな中で退屈を感じていたんですか?
「感じてました。『自分が何をしたいのか?』『今、何をすべきなのか?』といったことがボンヤリしていて、ただ1日が過ぎるのを待つ、誰かがどうにかしてくれる……みたいな感じでした。それがすごくコンプレックスだった時期です」。
――華々しくメディアに出ていたのと裏腹に。
「女優になりたいのに、なかなかそういうお仕事ができない。自分の中で葛藤があったというか、周りの人が見ている景色と、私が個人として見ている景色が違っていて、いろいろ悩んでいて、今思えばなかなかしんどかった時期でしたね。そんなときに出会ったのがこの作品で、自分とシンクロしました」。
――歌舞伎町のチンピラヤクザの純平(野村周平)が、対立する組の幹部の命を獲る“鉄砲玉”を命じられて、決行までの3日間をたまたま知り合った加奈と過ごすストーリーですが、劇中に描かれていない加奈のバックグラウンドも考えました?
「考えました。あまり暗い過去はなくていいなと思って、本当に普通の家庭で過ごしてきた女の子だけど、家族に執着がなくて友だちも少なく、ボンヤリ生きてきたイメージが強かったです。もしかしたらお父さんがいなかったのかもしれない。でも、どこにでもいそうな、聞いたら小さい悩みがあるくらいの女の子でいいと思ってました」。
――とはいえ、会社に押しかけてきた純平を追い掛けて、街の中をヒールを脱いで走ってきたのは、普通の女の子はやらないことでは?
「加奈の情熱的なところですよね。それまで冷めていたのに、知り合いが騙し取られたお金を奪い返しに来た純平と会って、加奈が本来持っていた熱い部分が目覚めたという感じです。『これが欲しい!』とか『こうしたい!』となったら、ズドーンとぶつかっていく。そういう熱さはもともと持っていた女の子だと思うんです。だから裸足で純平を追い掛けたり、そのあと大胆な行動に出たのも、加奈なら全然やりそうだと思いました」。
――純平が最初に来たときは、不動産屋のバックにいる他の組のヤクザにボコられてましたが、そのときから加奈に火が付いていたと?
「そうですね。純平の『何こいつ? いつの時代?』みたいなむさ苦しい感じが、加奈にとっては新鮮でカッコ良く見えたんでしょうね」。
――二度目にピストルを持って来たあとでは「さっきのはダサイ。最初に来たときのほうがカッコ良かった」とも言ってました。
「ピストルで脅して無理やりお金を奪っていくのは不動産屋の人たちと同じ、みたいな意味ですね。最初に『人としておかしい』と体ひとつで話に来たのが、カッコ良かったので」。
――そうした加奈の心の動きは理解できました?
「純平に対する感情は感覚としてわかりました。私自身も同じように感じたところが多かったです」。
――鉄砲玉をやることは、最初は茶化す感じでしたが……。
「最初に鉄砲玉をやる話を聞いたときは『何なの、それ?』くらいで、深くは考えてなかったはずなんですよ。『何か時代錯誤のおかしなことを言っていて面白いな』という感じで、それもカッコイイと思っていたのが、だんだん彼が大切になっていくと失いたくない気持ちが強くなって……。そりゃ『考え直せ』ってなりますよね」。
――「こんなに人を好きになるのは初めてなの」とSNSに書いていましたが、出会って3日足らずで、そこまで思えるものですかね?
「最初に本を読んだとき、それが不安でした。『そんなにすぐ人を好きになれるものかな?』という違和感があったので。私はひと目惚れもあまりしたことがないし、純平を本当に好きになれるかどうか……。でも、加奈の情熱的な性格も含め、彼女を知れば知るほど『全然自然だな』と思えて、人を好きになるのにそんなに時間は必要ない気がしました」。
――純平と出会って、最初にさっき出た通りカッコ良く見えたのがありつつ、何にそこまで惹かれていったんでしょう?
「純平と加奈は生きてきた時間のスピードも見えていたものも全然違っていて、だからこそ、純平が見ていた景色を見たかったんだと思います。加奈は“死”とかそういうことが身近になくて、ただボンヤリ生きていくと感じていたけど、純平は戦いながら生きていたじゃないですか。2人の走る道路はまったく違っていて、加奈は純平のほうの道路に行きたかったんだと思いました」。
きれいに映る気は一切なくて
女優として覚悟を考え直しました
――全般的に、加奈を演じる上で悩んだことはありませんでした?
「撮影に入るまでの準備期間はすごく悩みました。こういうテイストの作品は初めてでしたし、『どう演じるべきなのか?』『どんな表現をするべきなのか?』と。あと、『加奈という人間をどこまでわかっていれば、魅力的に演じられるんだろう?』とか、技術面も含め、悩んだことはいろいろありました」。
――その悩みを払拭するために、何かしたりは?
「歌舞伎町に居座って道行く人を観察したり、事務所でやっているワークショップでいろいろな相談を投げ掛けて、対策的なことをしていただいたりしました。でも、そういうことは加奈と向き合う時間として大切なのであって、『現場でやらないといけないことではない』と講師の方に言われていたので、現場に入ってからは、全部忘れてました」。
――歌舞伎町で人間観察したことは、基盤として役立ちました?
「それはめちゃめちゃありました。私は歌舞伎町にあまり行ったことがなかったので、あそこで毎日暮らしている女の子を想像できなかったんです。『まず見るしかない』と行ってみたら、本当に加奈っぽい子がいっぱいいました」。
――純平と深く愛し合うシーンは、殻を破った感じでした?
「私としては覚悟はもちろん必要でしたけど、なんせ3日間のお話なので、愛を伝えたり確かめ合うのに、それ以上の方法はないですよね。だから必要なシーンだと思ったし、気合いをめちゃめちゃ入れたわけではなく、『必要なのでやります』くらいのスタンスでした」。
――髪を切られるシーンは自分の髪でやったそうですが、それはどんな気持ちから?
「そこをウソにしちゃうと、全部がウソになっちゃう気がしたんです。加奈が失ったものをウソにしたくはなかったので『切りましょう』という感じでした。あそこがカツラだったら、表情とかも全然違っていたと思います」。
――ああ、そうですね。ポスターでは鼻血の出た写真が使われています。
「今回の映画では『きれいに映ろう』という気持ちは一切なかったです。それより観ている女の子たちが共感できる女の子でありたくて……。きれいを求められない芝居は私としてはすごくうれしかったです。そうでないところでもっと勝負したいと、前から思ってましたから」。
――ラストシーンは、撮影の最後に撮ったのですか?
「撮ったのは撮影の中盤で、難しいかなと思っていました」。
――実際には3日間を生きるところまで演じてない段階だったから?
「そうですね。だから、わりとギリギリまで『あそこを撮るのはラストにしてください』と言ってました。でも、最初の段階から野村くんが純平でいてくれたから、楽に役に入れた気がします」。
――クランクアップのときはどんな想いが胸をよぎりました?
「『終わらないで』と思いました。純平と離れたくない、純平が消えてしまうのが寂しい……みたいな気持ちでしたね」。
――2年経ってから、自分で試写を観た感想は?
「全然客観的には観られなかったです。ただ、『みんな泣いてる……』という感じで、良いも悪いも何もわかりませんでした。スクリーンの中で純平が動いてくれているのがうれしかったです」。
――演じていたときのイメージとのギャップはありませんでした?
「どうなんでしょう? 加奈がどう映るとか、想像しながらやってなかったので。ただ加奈として生きてました」。
――なるほど。この作品に出演して、ゆり菜さんが考え直したことはありますか?
「女優をやっていく覚悟を考え直しました。『私は甘かったな。もっと本気で向き合わないとダメだな』と思いましたね」。
――それまでも全力で取り組んではいたんでしょうけど、振り返れば甘さがあったと?
「だと思います。何て言ったらいいのか……。本気度? ナンだカンだと逃げ場があったから、それをなくした感じで、ちゃんと覚悟を持って挑んだのがこの作品でした」。
――いわゆる本格派女優の道を歩んでいこうと。
「そうですね。『柳ゆり菜はこういうふうに行こうと思っている』という決意表明になる部分もきっとあるし、それを世の中に出したということは、もうそこで生きていくしかない。それこそ加奈が純平と生きていくことを決めて、SNSにいろいろ書いていた携帯を捨てたのと一緒で、何かを捨てて新たに……という気持ちはすごくありました」。
――本当にこの作品がターニングポイントになったわけですね。
「完全にそうなりました。この作品に出演したことが私の糧になって、本当に良い出会いだったと思います」。
――ちなみに、もしゆり菜さんが3日間を思い残すことなく過ごそうとしたら、何をしますか?
「お金を自由に使えるなら、映画を撮りたいです。好きな役者さんと監督を呼んで、私はプロデューサーみたいな感じで自分も出て(笑)、ショートムービーを作りたい」。
――どんな映画にするんですか?
「そこまでは考えてないです。ただ好きな人がいっぱい出ていて、自分の好きな感じの作品になれば楽しいと思うので、撮ってみたいんです」。
――映画は最近もいろいろ観ているんですか?
「ちょっと忙しくなっちゃったので、映画館にはあまり行けてませんけど、重いのを観てます。『ウインド・リバー』とか、結構しんどくて事件が多い作品です(笑)」。
――自分でもこれからも、きれいなだけでは済まない作品に出て行きたいと?
「そういうのをどんどんやっていきたいです。何かが欠けている人が観て、生きる哲学になるような作品というか、『私もこうだな。こういうふうに見えているんだな』とか『これは私の映画だ』とか、ちょっと生き辛い人たちに思ってもらえる作品に出られる女優になりたいです」。
柳ゆり菜(やなぎ・ゆりな)
生年月日:1994年4月19日(24歳)
出身地:大阪府
血液型:O型
【CHECK IT】
2013年に「smart Boys&Girlfriendオーディション」で特別賞を受賞。2014年5月公開の映画「うわこい」で女優デビュー。同年10月に連続テレビ小説「まっさん」(NHK)で劇中のポスターのモデルとなって注目される。主な出演作は、ドラマ「きみはペット」(フジテレビ)、「名刺ゲーム」(WOWOW)、「アイアングランマ2」(NHK)、映画「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」、「ヴァンパイアナイト」、「破裏拳ポリマー」など。映画「純平、考え直せ」は9月22日(土)より新宿シネマカリテ、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開。「ここは退屈迎えに来て」が10月19日(金)より公開。
詳しい情報は公式HPへ
「純平、考え直せ」
詳しい情報は「純平、考え直せ」公式HPへ
配給:アークエンタテインメント
(C)2018「純平、考え直せ」フィルムパートナーズ